父親が死んで半年ほど経ち葬儀の後自室の本棚に飾った小さな遺影に見つめられながら眠ることにも慣れてきた春先にぼんやり植物にまつわる話を考えていると今ではすっかり平凡に落ち着いた実家の庭の端から端にこれでもかと咲き誇っていた彼の育てる薔薇の匂いと感情が整理されなないまま起ち上がってくるけれど改めてクールに因数分解してみるとひとつはその強い芳香に包まれた敷地に入るたびに起こる自分のジェンダー感を揺さぶられているような感覚で当時の宏行少年は「男子たるもの花を愛でてはいけない」という謎のバイアスにかかっていてそれに掛け算された「少女は花を愛でるものである」というこれまた偏狭な少女コミックのイメージからとても残酷だけども父のその世界に「恥」に近い感情をもっていたので父に深く陳謝したいと思いつつ逆に彼の作る花が賞を取ったり母が嬉しそうにダイニングテーブルに一輪飾るのを見る度に誇らしい気持ちも湧いていたので父に浅く感謝という思いも同時に湧き上がり相変わらず心と記憶は右往左往しているが今となっては叶わぬことになってしまったので鳥瞰にふわっと引いて細目で振り返ってみれば只々成長過程の道理も知らぬ息子がうぉぉさぉぉと独り相撲していただけでそんなことは意に介さずぶっきらぼうなしかめっ面で隆々とした筋肉を使って小さなハサミでパチンパパチンと薔薇のお世話をしていた愛らしい男だったね合掌。